夜香花
「忍びの者にしては、呆気ないような気がするが」

 真砂はいつも単独行動だが、主に仕える忍びというのは、まず単独行動などしない。
 通常、忍びというものは、一党の結束というものが堅いものなのだ。

 何かを探るだけの任務であっても、二人は派遣する。
 一人がおとりになったり出来るからだ。

「今は忍びの質も落ちてるからな。一党全体が一流の忍び軍団なんて、まずないぜ。そんな大層な党を、丸々抱えてる武将もいないしな」

 そもそも相次ぐ戦や、伊賀や雑賀に対する攻撃で、忍び自体が少なくなっている。
 忍びの者にとっては、生きにくい時代なのだ。
 清五郎の言葉に、真砂も一つ頷いた。

「……考えても仕方ないか。そうだな、こいつが覚えてないなら、相手の出方を見るしかない。とりあえず、尋問は続けてくれ。夜が明けたら、こいつを伴って広場へ行く」

「承知」

 清五郎が、軽く頭を下げて出て行く。

 真砂と二人になった途端、深成はまた、ぺたんとその場に座り込んだ。
 そして大欠伸をする。

「やれやれ。何だか物騒で嫌だね~」

 呑気に言い、ころりと横になると、再び寝に入る。
 真砂はそんな深成を、じっと見た。

「お前は自分が真田の姫で、再び戦乱を巻き起こす存在だってことに、気づいているのか?」

 ぼそ、と口にした真砂の呟きは、深成の気持ちよさそうな寝息に呑まれて、闇に消えた。
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