夜香花
「あっ危ないなぁ! 何て扱いするんだ!」

 噛み付く深成に、広場の誰もが固まった。
 縛られている男はともかく、その他の者は、この里の者だ。
 この恐ろしい頭領に食って掛かるなど、考えられない者たちばかりなのだ。

「な、何だ、あの子供は」

「あれが噂の刺客か? 冗談だろ」

「頭領の子供か?」

 ぼそぼそと、そこここで声がする。
 真砂はそんな皆の視線など気にせず、縛られている男をじっと見た。
 深成を見て、この男がどういう反応をするか。

 が、実際はそう期待しているわけでもない。
 今の深成を一目見ただけで、その出自がわかる者などいないだろう。
 決定的な何か---例えば深成の懐剣などを確かめないと、誰も確信は持てないはずだ。

 案の定、男の表情からは、この場に似つかわしくない深成の登場に、少し面食らっただけの驚きしか見出せなかった。

「頭領」

 呼ばれてふと見ると、中の長老が男の横に控え、真砂を呼んでいる。
 真砂が長老に近づくと、長老は、持っていた杖で、ぐい、と男の頭を押した。

 押されて頭が右側に倒れ、首の左側が露わになる。
 そこに、小さな印があった。
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