夜香花
「ねぇ真砂。あんた、いくらこの人に質問したって、答えなんか返ってこないって、わかんない?」

 不意に深成が、ぷぷぷ、と笑いを噛み殺しながら言う。
 ちらり、と視線を落とした真砂に、深成は勝ち誇ったように、びしっと指を男に突きつけた。

「猿轡されてるのに、喋られるわけないじゃん」

「……阿呆は黙ってろ」

 無表情に言われ、深成は固まった。
 だがすぐに、真砂に向かって顔を突き出す。

「阿呆はあんたでしょっ! 何さ、猿轡の存在も忘れてるくせにっ」

 真砂に食って掛かる深成に、里の男たちは震え上がった。
 食って掛かるものあり得ないが、頭領に向かって『阿呆』とは。
 そんなこと、口が裂けても言えない言葉である。

「お前じゃあるまいし、そんなわけあるか。何故猿轡を噛まされているかもわからん馬鹿者は黙っておけと言っている」

「騒がないためでしょーがっ! 朝っぱらから騒がれたら、たまんないものっ」

「阿呆か。お前は本当に、忍びというものがわかってない。口を自由にしておいたら、こいつはたちまち舌を噛み切るだろうが」

 きょとん、と深成は真砂を見る。
 何で? と問われる前に、真砂は再び口を開いた。

「忍びは捕まったら最後だ。自力で逃げ出すことが敵(かな)わんなら、命を絶つ。己の命よりも、使命のほうが大事だからな。下手に口を割る前に、命をもって秘密は守る」
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