夜香花
「兵は爆破する前に、屋敷に敵をおびき寄せて、諸共に葬るつもりかもな」

 言いながら、ちらりと清五郎は部屋の奥へと目をやった。
 やっと、千代に縋り付いていたまつが、入り口に佇む男二人に気づいた。
 驚いた表情で固まっている。

「……なっ何者っ」

 御簾のすぐ前まで後ずさり、まつは叫んだ。
 真砂も清五郎も、明らかに兵士の格好ではない。
 真砂は無言で、まつに近づいた。

「その奥におわすは、この屋敷の殿の、ご正室か」

 目は御簾に据えたまま、真砂はまつに問うた。
 特に刀を突きつけたり、まつの胸倉を掴んだりはしていない。
 前に立って、口を開いただけだ。

 が、そうだと言った瞬間、命がなくなりそうで、まつは、ぶるぶると震えたまま、真砂を見上げた。
 真砂は、ちら、とまつを見、不意に下げた血刀を振り上げた。
 まつが息を呑んで目を閉じる。

 次の瞬間、ばさ、と音がした。
 恐る恐る目を開いたまつの前を横切り、真砂は斬り落とした御簾をまたいだ。
 目の前に、怯えたような表情の、美しい女人がいる。

「……ほぅ。確かにいい女だ」

 にやり、と真砂の口角が上がる。
 清五郎も、真砂の後ろから室を覗き込んだ。
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