夜香花
 深成は黙っている。
 他の者も、固唾を呑んで二人を見つめた。

 他の者からしたら、真砂がこのように、きちんと説明することも意外だったのだ。
 真砂からしたら、何か言うたびに、やいやいと聞かれるのが鬱陶しいから、という理由だけなのだが。

 それも、深成の性格を見抜いた上での行動だ。
 まず間違いなく、ここまで言わないと深成には理解出来ないだろうと思ったのと、わかっていてもいちいち聞かれると苛々するからだ。

「でも、結局このままだったら、あんたが何聞いたって、この人は答えようにも答えられないじゃん」

 深成が口を尖らせて言うと、真砂は眉間に深々と皺を刻んだ。
 後方の男たちが、皆内心『ひいぃぃっ!』と悲鳴を上げる。

「そんなことはわかっている! その前に、こいつが聞いたことに答えるなどとは思ってない!」

「じゃあ聞くだけ無駄じゃんっ」

 深成も意地になって言い募る。
 男たちの緊張が極限に達し、凍り付いた空気に耐えきれなくなった清五郎が腰を浮かせた。

 が、真砂の手が動くほうが早かった。

「黙ってろ! 俺が何の考えもなく、こんな意味のないことをすると思うのか!」

 片手で口を押さえられ、深成は目を見開いた。
 小さい深成の顔は、真砂の片手でも顔の半分ほど隠れてしまう。
 息苦しくなったが、それよりも真砂の剣幕に気圧され、さすがに深成も震え上がった。
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