夜香花
 男はさりげなく視線を外した。
 心を読まれることを恐れたのだろう。

 が、真砂は男の肩が、僅かに揺れたのを見逃さなかった。
 表情には出ないよう注意しているが、態度に出てしまっては同じ事だ。

---あまり手練れではないな---

 優秀であればあるほど、考えも読みにくい。
 この者は、己の気を自在に操れるほどの手練れではないようだ。
 真砂は立ち上がった。

「頭領。この者は、どうします?」

 一人の男が、真砂に聞いた。

「とりあえず、そのままにしておけ。ああ、身ぐるみ剥がしておけよ」

「承知」

 真砂の命に、男は控えていた何人かに目配せし、それに応えるように進み出た者らと、縛られている男を取り囲んだ。
 縛られた男の顔に、怯えの色が浮かぶ。

「清五郎。こいつはどこから来た?」

 真砂はすでに木から離れ、清五郎に言った。
 清五郎が、さっと真砂を追い抜いて、少し前を行く。

「あの辺りだ。多分、あの木の陰にしばらく潜んでいたんだろう」

 言いながら向かった先は、里の西側の端。
 里の外に足を踏み出せば、あっという間に深い森の中に通じている。
 真砂は木の下に立ち、ぐるりと辺りを見渡した。

「気になるなら、捨吉らに探らせよう」

 そのまま森に入って行きそうな真砂に、清五郎は声をかけた。
 曲者が入り込んだ直後に、頭領が里からいなくなるのは避けたいのだろう。

 真砂も、はっきりと目的があるわけではない。
 頷くと、もう一度辺りを見回して、踵を返した。
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