夜香花
 干飯とは、携帯用の非常食である。
 煮炊きしなくても、そのまま食べられるので、深成が気づかなくてもおかしくないのだが。

「もぅっ。わざわざわらわが、あんたの食事に合わせておやつ食べてるってのにさ!」

 勝手といえば勝手な理由で、ぶぅ、と膨れる深成に、真砂は寝転んだまま、じろりと視線を上げた。
 ふて腐れた様子で残りの芋を囓る深成を、じっと見る。

 ひとしきりもぐもぐと芋を咀嚼した深成は、最後に茶を飲んで喉を潤すと、ごそごそと真砂の傍に丸まった。
 ぴたりと背中を、真砂の背につける。

「……何だよ。何故くっつく」

「前にも言ったじゃん。あんたがどこにも行かないように」

「前は外だからだろ。今は俺の家なのに、何故俺がどっかに出て行くと思うんだ」

 以前に城下まで行ったときは、深成にとっては見知らぬ土地だっただろうし、寝ている間の不安もわかるが、今はそうではない。
 むしろいつもの日常に戻ったはずだ。

 深成がここに来てから、常に真砂の傍にいたといっても過言でない。
 ずっとここにいたのだ。

 当然夜だって、真砂と二人だった。
 だが、こんなに引っ付いていたことはない。

 深成の戸惑いが、合わさっている背中から、何となく真砂に伝わった。

「……わかんないけど」

 ぼそ、と呟いた後、いきなり深成は、ぐいっと身体を押すように、さらにべたりと背中を引っ付けた。

「わかんないよっ! 何となくだよっ! 寒いのかもねっっ!」

 やけくそ気味に叫び、そのまま深成は寝に入ろうとする。
 真砂は少しだけ訝しげな顔をしたが、やがて小さくため息をついた。
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