夜香花
第二十八章
 何事もなく夜が明け、鳥の囀りが聞こえてきた。
 深成はじっとしたまま、背中の感触を確かめる。
 背中に感じるのは、紛れもなく真砂の背中だ。

 ようやく、ほっと安心し、身体の力を抜く。
 こんなに安心するのもおかしな話だ。
 何せ、昨夜は一睡もしていないのだ。

 何故か背後の真砂が気になって、ずっと触れ合っている背に神経を集中していた。
 お陰で普通に起きているよりも疲れたようだ。

---寝ないのなら、何もこんな引っ付いてなくても良かったな---

 普通に見張っていれば良かったのだ。
 やれやれ、と息をつき、深成はそろりと上体を起こした。
 そこでふと、真砂を覗き込む。

 僅かに深成の目が見開かれた。
 が、次の瞬間には慌てて動きを止め、ついでに息も止める。

 そのまましばらく固まり、やがて、息を整えながら、細心の注意を払って、再び真砂を、そろ~っと覗き込んだ。
 じいぃぃ~っと真砂を凝視する。

 寝ているのだ。
 おそらく、前に見た寝たふりではない。
 寝息などは聞こえないが、整息の術に長けた深成にはわかるのだ。

---すっっごおぉ~い……---

 思わず感動してしまう。
 本気で寝ている真砂は、普段ならあり得ない無防備さも相まって、別人のようだ。
 当然ながら、いつもの刺々しさもない。
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