夜香花
 しばらく歩いて、二人は河原に出た。
 いつもの岩に刀と苦無を置くと、真砂はさっさと帯を解く。

 深成は少し考え、きょろ、と辺りを見回した。
 少しだけ離れた川の中に、大きな岩がある。
 深成はそちらに行き、岩の陰で帯を解いた。

 真砂にはすでに裸を見られているし、散々子供の身体だと言われているが、さすがに自ら目の前で裸になるのは恥ずかしい。
 手早く着物を落とすと、下着の単だけになって、川に入る。
 川の中程まで泳いでいくと、手頃な魚が目に入った。

「あっ鮎だ」

 ばっしゃんと水音を立て、魚を追いかける深成を、真砂は離れたところから、冷めた目で見た。

「ちょっと! ぼっとしてないで、ほらっ捕まえてよぅ」

 わたわたと水を掻き分けて、深成が真砂の傍に来る。
 が、裸の真砂を見た途端、慌てて回れ右をした。

---これが真田の姫君ねぇ……---

 じっと深成の後ろ姿を見た後、真砂は足元に目を落とした。
 ちらちらと、たまに魚が泳いでいく。

 真砂は素早く身体を折ると、そのうちの一匹を掴んだ。
 僅かに上がった水音に、深成がそろそろと振り向けば、真砂の手には、びちびちと暴れる鮎が一匹、握られていた。
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