夜香花
 しばらくぷんすかと真砂を睨んでいた深成だったが、やがて自分も水に潜ると、ざぶざぶと身体を洗い出した。
 単もどうせ洗うのだから、着たままなのだが、最終的には脱いで干さねばならない。
 真砂が離れた今のうちにやってしまおうと、深成は単を脱ぐと、水に晒して、ぎゅ~っと絞った。
 そして岩の上に広げて干しておく。

 ちらりと真砂のほうを見ると、真砂も同じように、単を洗っていた。
 だが干すことはせず、そのまま濡れた単を羽織る。

 そして、岸に上がると、こちらに戻ってきた。
 元の刀などを置いていた傍で、軽く石を組み合わせて、火を熾す準備をする。
 真砂が裸でないことに安心し、深成も川から上がると、着物を羽織って真砂の傍に駆け寄り、石を組むのを手伝った。

「えっと」

 真砂が火を熾したところで、深成は立ち上がり、辺りをきょろきょろと見回した。
 この川には、美味しそうな鮎が沢山いる。
 だが生憎深成は真砂のように、泳いでいる魚を素手で掴むなどという芸当は出来ない。

 銛の代わりになるものはないかなぁ、と辺りをうろうろし、川の向こう側に生い茂っている竹藪に目を付けた。
 笹なら丈夫だし、ある程度育ったものなら、細い矢ぐらいにはなる。

 たたた、と川辺に寄った深成だったが、はた、と水際で足を止めた。
 このまま水に入れば、着物が濡れてしまう。
 単は乾かしているし……と考え、真砂を振り返った。
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