夜香花
「ねぇ。魚捕る笹、採ってきてよ」

「……てめぇで行けよ」

「だってわらわ、水に入ったら着物濡れちゃうもん。あんたが引っかけてる単はずぶ濡れなんだからいいじゃん」

「脱げばいいだろうが」

「わらわは女の子なんだよっ! あんたの前なんかで、裸になれるわけないでしょっ!」

 訝しげな顔で、真砂が憤慨する深成を見た。

「残念ながら、俺はガキに興味はない」

 素っ気なく言う。
 事実、今この場で深成が素っ裸になって水に入っていっても、この男は何も思わないのだろう。

 何故か悔しくなり、深成は、ぎっと真砂を睨むと、ぷいっと初めの岩の陰に走った。
 そこで着物を脱ぐと、ざぶざぶと水に入る。

 裸なので、水跳ねも気にならない。
 ちょっと楽しくなり、深成は足元を泳いでいった鮎目掛けて、両手を突き出した。
 両手の中に、鮎が入る。

「あっ! やった!」

 捕まえられた、と手を引こうとした途端、鮎はするりと合わせた手の間から逃げていく。

「あっ! ああ~……」

 わたわたと慌てているうちに、鮎は瞬く間に泳いでいってしまった。
 しばし泳いでいった鮎を見送っていた深成は、視線を落とすと、足元を睨んだ。

 足元にはすぐに、また鮎が泳いでいく。
 そのうちの一匹に狙いを定め、深成は、えやっと両手を突き出した。
 今度はすぐには引き上げず、水中で格闘する。
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