夜香花
「ふぃ。やっぱり捕りたての鮎は美味しいねぇ」

 火にあたりながら、深成が捕った鮎を頬張りながら言う。

「自分で捕ったら、また格別。努力の賜物だね」

 あの後、コツを掴んだのか、深成は合計三匹の鮎を手に入れた。
 そしてそれを、今現在満面の笑みで平らげている最中である。

「鮭に拘りはなかったってことか」

 あんなに食いたがっていたくせに、と言う真砂に、深成は少し口を尖らせた。

「だって、いないんじゃしょうがないじゃん。鮎も美味しいから、いいんだよっ」

 もぐもぐと魚を咀嚼しながら、深成はちらりと真砂を見た。
 すぐ横に、刀と苦無袋を置いている。

「ねぇ。何で今日は、そんなに警戒してるの」

 真砂の視線が上がり、深成を見る。
 深成は、ちょい、と苦無を指差した。

「刀はいっつも持ってるけどさ。苦無まで持ってくるなんて珍しいじゃん」

「俺からしたら、丸腰でうろちょろするお前のほうが信じられんがな」

「だってわらわは、真砂と一緒だもん」

「何だよ、それは」

「真砂の傍にいれば、安全でしょ。強いもん」
< 363 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop