夜香花
「お前はほんとに、良い度胸をしてるな。俺にそんなこと言うのもするのも、お前が初めてだ」

「だってわらわは、真砂なんて怖くないもん」

「そう思ってんのも、お前ぐらいだぜ」

 ちら、と深成は真砂を見た。
 里の皆は、真砂を恐れている。

 そっか、と手を叩き、深成はずいっと真砂のほうに身を乗り出した。

「あんまり皆が真砂を恐れるから、真砂も楽しくないんだよ。だから、笑うこともないんだ」

 こんなにべらべらと、真砂と会話する者もいないだろう。
 他愛ない話もしないし、相手がびくびくと話しかけてきても楽しくない。

「そうかもな。けど、それでいい」

 ふい、と真砂は顔を背けた。
 そもそも真砂は、人との関わり自体を厭う。
 皆と仲良く過ごすなど、考えられないことだ。

「何で皆、あんなに真砂を怖がるんだろう」

「さぁな。それは俺にもわからん。皆と何が違うというんだ」

 どうでもいい、という風に吐き捨てる真砂を、深成はじっと見た。
 一言で言うなら、纏う空気だろう。
 完全に他人を拒否する空気。
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