夜香花
「仇? ……あ、ああ~。そういえば、そうだったね!」

 ぽん、と呑気に拳を叩く。
 仇討ちと聞いても、すぐにはわからなかったようだ。
 あり得ない、と真砂はまた一つ、大きくため息をつく。

「仇討ちは、やめたのか?」

 呆れたように言う真砂に、深成は膝先の小石を弄んだ。

「だって、敵わないもん。負けたじゃん」

「……元々、そんな真剣でもなかったしな」

 少し深成が顔を上げた。
 が、真砂はそのまま、話を続ける。

「お前、機会は結構あったのに、俺に手出ししないじゃないか」

「……」

「確かに俺は、お前を完膚無きまでに打ちのめしたかもしれんが、あのときも言ったように、お前の攻撃には僅かな迷いがある。死にたくないっていう心理か? 心に僅かでも、そういう躊躇いがあると、隙ができるぞ」

「わらわ、死にたくなかったのかな」

 でもこのまま生きていくにしても、どうしたらいいのか。
 今は真砂に付きまとっているが、ずっとこの先も付きまとい続けるわけにはいかないだろう。
< 367 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop