夜香花
「真砂が家庭を持つ気がないんだったら、わらわはずっと、真砂といて良いんだ」

 思わず深成は、嬉しそうに言った。
 また何か暴言を吐かれると思ったのに、意外に真砂は、一瞬だけ目を見開いただけで、すぐに表情を引き締めた。
 そのまま少し考える。

「そう簡単にいくかな」

 いそいそと自分も着物を着ていた深成は、思わぬ真剣な声に振り向いた。
 真砂が、火を消しながら、話を続ける。

「あの曲者の狙いは、多分お前だ。真田系だから、お前を迎えに来たのかな」

「えっ。な、何で?」

「言っただろ。殿様が討たれたら、家が保てない。直系であるお前を迎えて、重臣との婚姻を進める気なのかも」

「やだっ!」

 光の速さで拒否する深成に、真砂は少し微妙な顔をした。

「……お前が嫌だと言ったところで、拒否権なんぞない。良いじゃないか、そんな貧相な格好で鮎を捕らなくても、結構な暮らしが出来るぜ」
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