夜香花
「……とにかく、あの曲者が二人組だったとして、一人が何者かに殺されたってことだな。里の誰かが仕留めたわけではあるまい」

 里の者が殺したのであれば、清五郎辺りが真砂に報告するはずだ。

「戻るぞ」

 そう言って、さっさと歩き出す真砂の裾を、深成が慌てて引っ掴んだ。
 いきなり着物の裾を引かれ、真砂は思わずつんのめった。

「おいてく気っ?」

 ぎっと、涙の溜まった目で睨む。

「知るかよ」

 邪険に足を払うと、深成は勢いに負けて、ころりと転がった。

「噛み付くよっ!」

 相変わらず涙の溜まった目で、わけのわからない脅しをする深成に、真砂は顔をしかめた。
 鬱陶しそうに、捨吉を見る。
 その視線を受けて、捨吉は真砂と深成の間に割って入った。

「落ち着け。ほら、連れて行ってやるから」

 砂だらけの深成の手を取り、助け起こす。
 えぐえぐと泣きながら立ち上がった深成の身体をぱんぱんと叩き、手を引いて先を行く真砂の後を追った。
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