夜香花
 里の中央の広場には、長老初め、里のほぼ全員が集まっていた。
 いつも全員が集まるのは、依頼後の祝い酒のときぐらいで、皆が楽しく笑いあって明るい雰囲気だが、今は皆、真剣な表情で考え込んでいる。

「あ奴の連れが里の近くで殺されていたということは、求めるものが同じ輩が他にもいる、ということ……ですかな」

 東の長老が、口を開いた。
 先日捕まった曲者は、相変わらず広場の端の大木に括り付けられている。

 初めと違うのは、身ぐるみ剥がされて素っ裸ということだ。
 そして、随分ぐったりしている。

 特に折檻したわけでもないが、身体の自由を奪ったまま、裸で放置するだけでも、かなりの拷問なのだ。
 ここは山の中である。
 まだ冬ではないので、凍死することはないが、真夏でもないので朝晩は冷える。

 さらに、まだ山の生き物たちも冬眠には入っていない。
 蟻や蚊には容赦なく食われるし、蜂や蛇だっている。
 剥き出しの肌に毒虫がたかり、すでに見るも無惨な姿に変わっているのだった。

「真田の姫君を求めてやってきた戸隠忍びが殺された。ということは、真田の敵側が手を下したと見ていいでしょう」

 東の長老の言葉を受けて、中の長老が言ったことに、広場の隅のぼろ切れと化した曲者が、ぴくりと動いた。
 それを視界の隅に見つつ、真砂は黙って皆の意見を聞いている。
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