夜香花
「そういやこの部屋に入れてくれたのは、身分ありそうな侍だったな。あいつがあんたにとどめをさす手筈だったのかい」

「まつ! ……まつが無理なら、そなたで良い! そなたっ」

 清五郎に弄ばれながらも、室は懸命に千代を呼んだ。

「この男どもに汚される前に、わたくしの命を絶ってくりゃれ!」

 千代は眉を顰めた。
 清五郎はともかく、真砂は千代の想い人だ。

 それでなくとも、千代は男好きである。
 生娘でもあるまいに、貞操を守ろうとする室が、千代からしたら滑稽に見えた。

「ほほほ。何を言っているのやら。すでにお子を何人も産んだ身体ではありませぬか。真砂様に抱かれるなど、光栄と思っていただかねば」

 高笑いしながら、千代は懐から出した小さな苦無(くない)を、驚いている室に向かって投げつけた。
 室が、小さく呻いて身体を折る。
 白い胸元に、細長い苦無が突き刺さっていた。

「心配せんでも、ちゃんと命は絶ってやる」

 低い真砂の声に、室が顔を上げれば、己の守り刀が目の前で光っている。
 一際大きく、爆発音がした。
 部屋が揺れる。

「家臣に殺されようが、乱破に殺されようが、同じ事だろ」

 そう言い、真砂は守り刀を室の首に振り下ろした。
 血しぶきが飛ぶ。

 真砂は力を失った室の髪を鷲掴みにし、一房切り取った。
 それを懐紙に包むと、さっさと背を向ける。
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