夜香花
「西の真田はどうなった」

 真砂の問いに、常に下界に間諜を放っている北の長老が膝を進めた。

「九度山に幽閉だそうで。家族もそちらに移っております」

「討たれなかったのか。子供らもか?」

 こくりと頷く北の長老に、真砂は顎を撫でた。
 なら何故深成を欲するのだろう。

「男子が、まだおらぬからでありましょう」

 真砂の疑問に答えるように、中の長老が口を挟む。

「あそこはまだ、女子お一人。お子がお一人であれば、名門の武将であれば、心許ないことでありましょう。こういうときのために、密かに隠したお子なれば、今こそ取り戻そうと思い立っても不思議ではありませぬ」

「……なるほどな」

「とはいえ、まずい状況であることには変わりありますまい。まだ真田側であれば、こちらが手を結べば何とかなります。が、その敵側となると、そうはいかぬ。我らの里ごと、姫君を葬ろうとするでしょう。姫君が乱破に匿われたとなれば、その乱破も敵であります。敵に回った乱破ほど、恐ろしいものはありませぬからな」

 北の長老の言葉に、皆難しい顔をした。
< 380 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop