夜香花
 真砂は一つ息をつくと、空を仰いだ。

「崖で殺された奴は、あの曲者と真田の娘を取り戻しに、この里に来たんだろう。といっても娘の顔はもちろん、存在すら知らなかったはずだ。まずは様子見、といったところか。娘の存在は確認できなくても、とりあえず里の存在は確認できた。一人が捕まっても、もう一人が無事なら情報は届けられる。あの死体は、この里の存在を主に知らせに帰るところを襲われたんだな」

「いくら忍びだからって、そんなに沢山の者に知られているほど、この里は有名ではないはずでは?」

 里の男の一人が、真砂に声をかけた。
 伊賀や甲賀と違って、ここは知る人もない、小さな乱破の里だ。
 そんなぞくぞくと他人が出入り出来るような場所でもないし、そんなことなら部外者の捕獲に忙しくてならない。

「もちろんだ。その真田側の忍びは、多少の情報はあったんだろう。元々ずっと繋がっていただろうしな。細川屋敷までは、居所は掴んでいた。それからは謎だが……。そこまでわかっていて、なおかつ真田の娘の特性まで知っていたら、ある程度は行動がわかるかもしれん。真田の側近の忍びは優秀だ。元々こいつを仕込んだのが十勇士なら、同じように気を辿るとか、そういうことが出来ても不思議じゃない」

 ちら、と傍らの深成を見て言う真砂に、皆の視線も自然と小さな少女に注がれる。

「だが今問題なのは、そこじゃない」

 真砂の顔が険しくなった。
 一同を見回す。

「報告に走った真田の忍びが殺されたってことだ。この里の者ではないな?」

 真砂の言葉に、全員こくりと頷く。
 一同を見る真砂の視線に、ぴん、と広場の空気が張り詰めた。
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