夜香花
 くく、と笑っていた清五郎だが、ふと恐ろしいことに気づき、顔を上げた。

「待てよ。とすると、あの忍びを殺したのは、姫の居所を、真田に伝えるのを防ぐためか。真田の家系が安定するのは困る奴らの仕業ってことか」

 真砂が頷く。

「そしてさらに、そいつにこの里の情報が漏れた恐れがある」

 広場中が、水を打ったような静けさに包まれた。

「……この里も、伊賀の二の舞になるのか」

 ぽつりと、長老の一人が呟いた。
 若い者はいまいちぴんと来ないようだが、それなりの歳の者には、それだけで今がどれほどの危機に陥っているかがわかるようだ。

 この党は、有名でもない分、実力も知られていない。
 見も知らない流れの忍びなど、目障り以外の何ものでもないだろう。

 さらに主も持たない小さな党だ。
 潰したところで、誰の怒りを買うわけでもない。

 真田と繋がっている党だと認識されても、それはさらに状況を悪化させる要因でしかない。
 真田の力を削げるのであれば、喜んでこの党も潰しにかかるだろう。
 真田の姫君諸共、場合によっては脅威になりうる忍び一党を、一気に葬り去れる、またとない機会だ。

「頭領……。どうするのです」

 皆を代表して、中の長老が真砂に問うた。
 ようやく若者の間にも、事の重大さが理解されたようで、皆真剣な目で真砂を見る。

 束の間、真砂は目を閉じた。
 そこで初めて、袖に若干の重さを感じる。
 深成がずっと、真砂の袖を握っているのだ。
< 383 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop