夜香花
「……どうするかな……」

「殺してしまいましょうよ」

 目を開けると、羽月が立ち上がって、真っ直ぐに真砂を見ている。

「その小娘がここにいるから、この里が危機に陥るんでしょう。だったらそんな疫病神、さっさと殺してしまいましょう」

 もう一度、羽月が叫ぶように言う。
 真砂は周りの皆を見た。
 全員、黙って真砂の言葉を待っている。

「お、恐れながら、頭領……」

 おずおずと、捨吉が口を開いた。

「お、俺は、今深成を殺したところで、何も変わらないと思います」

 真砂は黙ったまま、捨吉を見た。
 袖から、僅かに深成の震えが伝わってくる。
 深成は俯いたままだ。

「今深成を殺したって、それが外に伝わるわけではありませぬ。真田の側は、最悪あの男を解き放てば情報がいく可能性はありますが、それとて真田の怒りを買うだけの話では? むしろ深成を守っていたほうが、我らは真田を味方につけられます」

「そうじゃな……。我らはどこの大名にも仕える気はないが、今は里存亡の危機じゃ。味方とまではいかずとも、下手に敵を増やす手はない」

 捨吉の説に、北の長老も頷いた。
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