夜香花
 家に入ると、真砂は簡単な荷造りをしていた。
 荷造りといっても、少しの保存食を小さな袋に入れるだけだ。
 大事なもののない真砂らしい、と思いつつ、深成はその場にしゃがみ込んだ。

「あの人、逃げちゃったよ。逃がしたの?」

 ぼんやりと真砂を見つつ、聞いてみる。

「まぁ、無事逃げられたら、ちょっとは状況もマシになるかもしれんしな。奴らが真田の側なのは間違いない。あいつが無事に主の元へと戻って、状況を知らせれば、お前の危機が伝わる。お前がそうだ、とはわからなくても、ここに目的の姫がいることはわかったんだ。その里が壊滅の危機だと聞けば、何とかしようとするだろうさ。俺たちのことはどうでもよくても、姫君を助けるために、送られてくる軍勢を何とかしようとするだろう」

 もっとも、大したことのない忍びの上に、あの状態では、あまり期待はできんがな、と付け足し、真砂は深成を見た。

「お前の感じていた予感ってのは、これのことか?」

 真砂の問いに、深成は少し考えた。
 そして、じ、と真砂を見、また考える。

「……わかんない。何か、大きなことっていうのかな。何か、凄く怖いんだよっ」

 上手く言い表すことが出来ないようで、深成はぶんぶんと頭を振る。
 真砂はため息をついた。

「里の壊滅ってのは、確かに大きなことだけどな」

 だが深成は、相変わらずふるふると頭を振っている。

「そうだけど、そういうんじゃなくて……」

 がしがしがしっと頭を掻きむしる。
 真砂も別に、深成がはっきりと答えられるとは思っていない。
 自分だって、薄ぼんやりとした感覚でしかなかったのだ。
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