夜香花
 う~んう~んと唸る深成を気にもせず、真砂は帯に刀を差し込んだ。

「あ、ま、待ってよ。さっき、隠れるって言ってたよね? どこに行くの?」

 がばっと顔を上げた深成が言う。
 深成はこの党の者ではない。
 当然党の暗号など、わかるはずもないのだ。
 広場で示した場所がどこかなど、わからないだろう。

「上手い具合に真田の兵が先についたとして、お前はどうする?」

 いきなりの真砂の問いに、深成はぽかんと固まった。
 思考回路がついていかない深成のために、さらに補足する。

「お前は真田の姫君だ。真田の兵は、お前を迎えに来るんだぜ。負けた武将のわりに、流罪だけで済んだなんて、相当敵さんにも目をかけられているんだろう。九度山に行ったところで、殺されることはあるまい。人生安泰だぜ」

「……えっ……」

「お前はこれから先、どうすればいいのかわからんと言っていたが、また新たな道が開けたじゃないか」

「で、でも。わらわが真田のお家に行ったって、何がどうなるっていうのさ」

「そんなこと知るかよ。大名の娘として、それなりの生活が待っている、ということだろうさ」

「それなりの生活って何さっ。真砂が言ったんじゃん、大名の姫になったら、見も知らない人のところに嫁がされるって!」

 そんなこと言ったかなぁ、と思いつつ、真砂は眉を顰めて深成を見た。
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