夜香花
「今更何を言ってるんだ? 俺が一度だって、お前を誘ってどっかに行ったことがあるかよ」

 真砂が深成を構わないのは、今に始まったことではない。
 気にしないのも程がある、というほど放ったらかしだった。
 この男の性格からいって、このような緊急事態だからとて、深成を安全なところに連れて行ってくれることなどあり得ない。

 先程広場でも言ったように、自分の行動は自分で考えろ、というのが真砂の教えだ。
 どんな状況だろうと、それは変わらない。

 散々真砂と一緒にいた深成だ。
 そんなことはわかっているが、深成はぎゅうっと袖を握った手に、さらに力を入れた。

「わらわは『草』じゃない。真田の姫君だってのも、わらわにはわかんないし、わらわが原因でここが危なくなったってのも、正直実感がないけど。置いていかないでよっ」

「別にここにいろと言っているわけではない。どこへでも行けばいいだろう」

「やだっ! 真砂の傍にいたい!!」

「まだ俺を狙うか」

 なかなかしつこいなぁ、と半ば呆れ気味に言った真砂だったが、深成は泣きながら首を振る。

「違うもんっ! 真砂の傍がいい! 傍にいたいんだもんっ!」

「……何故だ」

 内心驚きつつ、真砂は腕に取り付く小さな少女を見下ろした。
 驚いたのが、表情に出てしまったのだろう、深成が、我に返ったように黙った。
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