夜香花
第三十章
「そんで、どこに行くの?」

 戸を押し開けながら言う深成に、真砂が口を開きかけた。
 その目が鋭くなる。

「待て」

 小さく言い、繋いだ手を引く。
 深成は簡単に、真砂に引き寄せられた。

 開いた戸から、暗くなりつつある外を睨む。
 最も近い林の中に、僅かに垂れた縄。
 微かに見えるあの縄は、里の周りに巡らされた、侵入者防止の罠だ。
 それが、斬られている。

「真砂っ」

 深成が、林の中の一点を指差した。
 細く煙が上がっている。

「火薬の臭いがする。真砂、あっちのほうも、きっとヤバい」

 何が起こっているのか、何となくでも理解したのだろう、深成が鼻をひくつかせ、反対側の一点を指差した。

「早いな……。もう攻めてきたのか。何かのついでじゃないな。端からここを狙って来たんだろう」

 里の者は、まだ移動を開始したところだ。
 それに乱破とはいえ、家族のあるものや老人などもいる。
 さっさと動ける者ばかりでもないのだ。
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