夜香花
 まだ兵の姿は見えないが、やがて里の周りが、ぼんやりと明るくなってきた。

「周りに火を放ったのか。逃げ道を塞いだ上で、攻め入る気だな」

 異変に気づいた里の者が、ばらばらと広場に姿を見せだした。

「真砂!」

 ふと顔を上げると、清五郎が走ってきていた。
 手に刀を引っさげている。

「北側の草木を切り払って、道を作っている。皆、そこから例の場所に向かうよう伝えた。でもそれも、あまりもたないだろう」

「攻め手は忍びか」

 真砂の問いに、清五郎は頷いた。

「全員が全員ではないだろうが。この手口、ここまでされるまで気づかない程となると、それなりの忍びが主だろう」

「頭領ーっ」

 清五郎が報告しているうちにも、いろいろな者から新たな情報が入る。

「里の下のほうには、軍勢がいっぱい控えてます。忍びの者の姿は見えません」

「火の手が、南のほうはすでに里の中まで迫ってきてます。南の長老は、弥平さんたちが連れだし、例の場所に向かいました」

 各自おのおの行動しろ、とは言っても、真砂の元には逐一報告が入る。
 それはやはり、皆が真砂を頭領だと思っているからだ。

 だが指示を仰ぐことはしない。
 真砂の言うとおり、己で考えて行動している。
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