夜香花
「折良く捨吉が来たんだ。俺でもそいつでも同じだろ」

 そして、襟首を掴んだ腕に力を入れ、捨吉のほうへと深成を追いやった。

「捨吉。そいつを連れて、さっさと行け」

 乱暴に押しやられ、たたらを踏みながら、深成は不満そうな顔をした。
 だがここでぐずぐずするわけにもいかない。
 捨吉に促されるまま、走り出そうとした深成は、はっと気づいて顔を上げた。

「あんちゃん、おじぃちゃんは?」

「え?」

「えっと、中の長老だよ。逃げたの?」

 一番懐いていた長老だ。
 動きもままならないほどのよぼよぼではないが、戦闘に加われるほどの若さもない。
 襲われれば、太刀打ちできないだろう。
 深成は、中の長老の家へと駆けだした。

「あ! おい!」

 捨吉が慌てて後を追う。
 真砂は小さく舌打ちした。
 そこに、矢が飛んでくる。

「とりあえず、最終的に集まる場所は、言ったとおりだ。後は自分でそれぞれ何とかするんだな!」

 大声で言い、真砂は家から出た。
 すでにそこかしこから火の手が上がり、ちらほら具足姿の武者も見える。
 敵が入ってきたようだ。
 真砂の姿を見つけるなり、武者たちは声を上げ、刀を振りかざして向かってきた。
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