夜香花
「かなりの人数だな。こいつらをまいて逃げるのは、なかなか難しいぜ」

 清五郎が、四方八方から里に入り込む武者らを眺めながら呟いた。
 一人が真砂に向かって駆けてくると、他の者もそれに気づいてなだれ込んでくる。
 里の中にいた乱破たちは、迫り来る武者相手に斬り結び始めていた。

「とにかく、人数を減らさんことには、脱出もままならないだろう」

 そう言い、真砂は踏み出した。
 初めに真砂に向かってきた武者との間合いを一気に詰める。
 その速さに驚き、刀を振り上げた武者の懐に飛び込むと、拳を思いきり相手の顎に打ち込んだ。

 武者の足が不安定に揺れた。
 その隙に、相手が腰に帯びていたもう一本の刀を奪う。
 鞘だけ残し、引き抜き様に相手の喉笛を裂いた。

 そのまま真砂は、血を噴く男を突き飛ばして踏みつけ、向かってくる敵に飛び込んだ。
 目にも留まらぬ速さで、目に付く武者を片っ端から斬り裂いていく。

 何人か斬るたびに、刀を捨ててはまた相手から奪い、それで斬る。
 自分の刀は、滅多に使わない。

 刀は三人も斬れば、血糊で格段に斬れ味が鈍る。
 五人も斬れば斬れなくなる。
 故に、出来る限り敵の刀を使うほうがいいのだ。

 ふと真砂は、微かに漂う臭いに気づいた。

---この臭いは……火薬---

 すでに里の周囲は、火に囲まれている。
 この上で、さらなる火薬を何に使おうというのか。
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