夜香花
真砂は築地塀沿いに、屋敷の北側へと走った。
行き会った兵は、驚いているうちに、喉元を斬り裂いていく。
難なく北の端の築地塀前まで来た真砂は、外側にそびえる大木に目をやった。
僅かに枝が揺れ、葉の間から、ちらりと矢次郎が顔を出した。
その顔に、真砂は懐から出した、懐紙に包んだ室の髪を投げた。
「お見事」
『証明』を受け取り、矢次郎は、ふっと姿を消す。
これで今回の仕事は終わりだ。
さて、とっとと帰ろうと、築地塀を越えようとした瞬間。
真砂は腰の脇差しを抜いて振り向いた。
がきん、と脇差しが金属音を立てる。
同時に真砂のすぐ脇を、小さな塊が、よろめきながら通り過ぎた。
「お前は……」
真砂は少し驚いた表情で、少し先で振り向き、己を睨む小さな女子を見た。
室の部屋にいた、千代が手懐けた女子だ。
小さな手に懐剣を構えて、真砂に突きつけている。
「お方様の仇っ!!」
少女は叫ぶと、懐剣ごと突っ込んできた。
真砂は、ひょいと身体を捻って避け、背を向けた少女の上で、脇差しを振り上げた。
が、意外に少女は、次の瞬間自ら地に転がって、落ちてくる脇差しを避けた。
そして、素早く体勢を立て直す。
行き会った兵は、驚いているうちに、喉元を斬り裂いていく。
難なく北の端の築地塀前まで来た真砂は、外側にそびえる大木に目をやった。
僅かに枝が揺れ、葉の間から、ちらりと矢次郎が顔を出した。
その顔に、真砂は懐から出した、懐紙に包んだ室の髪を投げた。
「お見事」
『証明』を受け取り、矢次郎は、ふっと姿を消す。
これで今回の仕事は終わりだ。
さて、とっとと帰ろうと、築地塀を越えようとした瞬間。
真砂は腰の脇差しを抜いて振り向いた。
がきん、と脇差しが金属音を立てる。
同時に真砂のすぐ脇を、小さな塊が、よろめきながら通り過ぎた。
「お前は……」
真砂は少し驚いた表情で、少し先で振り向き、己を睨む小さな女子を見た。
室の部屋にいた、千代が手懐けた女子だ。
小さな手に懐剣を構えて、真砂に突きつけている。
「お方様の仇っ!!」
少女は叫ぶと、懐剣ごと突っ込んできた。
真砂は、ひょいと身体を捻って避け、背を向けた少女の上で、脇差しを振り上げた。
が、意外に少女は、次の瞬間自ら地に転がって、落ちてくる脇差しを避けた。
そして、素早く体勢を立て直す。