夜香花
 何故さっさと立ち去らないのか、自分でも不思議に思っていると、不意に炎の中に、ゆらりと人影が現れた。
 中の長老の左右を、深成と捨吉が支えている。

「と、頭領」

 長老が、真砂に気づいてすまなそうに顔をしかめた。
 深成の足手まといになっていることを、すまなく思っているのだ。

「別に俺が助けろと言ったわけではない。そいつが勝手に走っていったんだ」

 ぷい、と顔を背け、真砂は歩き出した。
 火が里を囲んでから、結構経っている。
 この分では、周りの木々を切り払って開いた道も、炎に包まれているかもしれない。

 とりあえず里の端のほうへと向かっていた真砂が、いきなり横に飛んだ。
 つい先程まで真砂がいた場所に、小さな苦無が刺さっている。

「避けたか」

 聞き覚えのない声に顔を上げれば、先程の二人組が木の上から見下ろしている。

「お前たちを、里から出すわけにはいかねぇ」

 もう一人が言うと、とん、と枝を蹴った。
 ひらりと広がった袖から抜いた手に、ちらりと見えたのは、小さな袋。

 真砂はそれを見るなり、己も地を蹴った。
 同時に刀を抜く。

 しゃっという刀が風を斬る音がし、真砂は飛び降りてきた男の背後に降り立った。
 間髪入れず、同時に落ちてきたモノを、遠くに、だが火の気のないほうへと蹴り飛ばす。
 真砂が蹴り飛ばしたそれは、火薬の袋を握った右手だった。
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