夜香花
「うっ……うおおぉぉ」

 腕を斬られた男が、傷口を押さえて蹲る。

「てってめぇ!!」

 もう一人が、番えていた火矢を真砂に向かって放った。
 だが真砂は、飛んでくる火矢を避けると同時に、男に向かって苦無を投げる。

「くっ……」

 一応忍びの者らしく、辛くも苦無を避けた男だったが、その苦無に気を取られた一瞬を逃す真砂ではない。
 はっとした表情のまま、男の首は次の瞬間、胴から離れていた。

「さ、長老。こちらへ」

 捨吉の声に、深成は我に返った。
 真砂の動きに目を奪われていた。

 強い、とは思っていたが、これほどとは。
 立った状態の人間の首を、一太刀で落とすことなど、とても出来る芸当ではないのだ。

「三人固まっていては狙われる。支えてもらわんでも大丈夫じゃよ。多少なら、わしもまだ戦える」

 そう言って長老は、二人を離した。
 捨吉が、先に立って先導する。

「大分人数は、頭領らが減らしてくれました。北へ回るよりも、その辺りから抜けたほうが良いでしょう。皆が皆、北へ向かうのも良くないでしょうし」

 先を歩きながら、捨吉が言う。
 そして比較的炎の少ないところを選んで、森に入った。
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