夜香花
 すでに長老の姿は、遙か遠くに遠ざかっている。
 真砂は、と周りを見渡すと、少し後ろで金属音がした。
 忍びが二人、真砂に斬りかかっている。

 二人同時に飛びかかられても真砂は動じず、一人に苦無を投げつけると同時に踏み込み、相手の首に刀を叩き付ける。
 だがその間に、背後から今一人が斬りかかる。

 深成は目を見開いた。
 真砂が斬られる、と思ったのだが、それからは何が起こったのか。

 真砂は目の前の、一人の首を斬ると同時に片手で相手の腰から刀を奪い、それを振り返りもせずに後ろに突き出したのだ。
 逆手に持った刀を脇腹に突き立てられた忍びは、一瞬動きを止めた隙に、刀に体重をかけた真砂に、一気に肩口まで斬り裂かれた。

 激しく血を噴きながら倒れる忍びの向こうから、刀を納めながら、ゆっくりと真砂が歩いてくる。

「……さっさと行け」

 返り血に濡れたまま、真砂が先を顎で示した。
 深成は小さく震えながら頷くと、前を行く捨吉を追う。

 同じように血まみれなのに、捨吉は怖くない。
 捨吉は戦っていても、どこか人間味があるからだろうか。

 真砂は言うなれば、人間味がない。
 強いが故なのかもしれないが、全く表情に動きはないし、動きに危なげもない。
 僅かな気配で全てを察知し、例え後ろから狙われても、見もせずに相手を倒すことが出来る。

 つくづく、よくこんな男に戦いを挑んだものだと思う。
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