夜香花
「真砂は強い……」

 ぼそ、と呟いたことに、前を行く捨吉が、ちらりと振り返って笑った。

「当たり前だよ。頭領だもん」

 心底誇らしげに言う。
 捨吉は、先のような場面を見ても、震えるほどの恐怖は感じないらしい。
 本気で真砂に刃向かったことなどないからだろうか。

 そろそろ里からも結構離れたと思ったとき、不意に辺りの草木が揺れた。
 同時に、何かが前方から飛んでくる。

「! 捨吉! 横に飛べ!!」

 真砂が叫ぶと同時に、前を進んでいた捨吉の姿が消えた。
 一拍遅れて、凄まじい爆発が起こる。

「……うっ……」

 けほけほと噎せながら、深成は顔を上げた。
 辺り一面、もくもくと爆煙が上がっている。
 捨吉の姿が見えないことに焦り、口を開いた深成だったが、いきなり後ろから押さえつけられ、口を塞がれる。

「馬鹿。じっとしてろ」

 瞬間的に暴れそうになった深成の耳に、聞き慣れた低い声が流れ込んだ。
 ほとんど聞こえないぐらいの、ささやかな声だが、深成の身体から力が抜けた。
 戦っているときの真砂はこの上なく怖いが、それ以外では何故か安心できる。

 戦闘時の真砂は、多分里の誰より深成が一番彼を恐れるだろう。
 だがそれ以外の普通のときは、里の誰より深成は真砂を恐れない。
 不思議だが、今も深成は背後の真砂に、大人しく身体を預けた。
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