夜香花
 真砂は深成を抱えたまま、少しだけ、傍の茂みに移動した。
 この視界を遮る爆煙を利用して、この場を離れようという考えだろう。

 が、深成は少し暴れた。
 真砂を振り返り、必死で先までいた場所を指差す。

 忍びでない深成は、他に聞こえないよう喋ることなど出来ない。
 故に身振りで示すしかないのだ。
 幸い真砂は、深成が何を言いたいのかを理解したようだ。

「気にするな。あいつもそれなりの乱破だ。自分が今、何を優先すべきか、ちゃんとわかっているだろうさ」

 ぼそ、と同じように、耳元で囁く。
 こくん、と深成は頷いた。

 そういえば、爆発が起こる直前、捨吉が言われたとおり飛ぶと同時に、自分も帯を引かれた。
 真砂が深成の帯を引っ掴んで、一緒に飛んだのだ。

「……」

 あまりごそごそするわけにもいかず、深成はじっと、己の背に真砂の体温を感じながら考えた。
 何故真砂は、わざわざ自分を掴んで飛んだのか。

 あれほど深成を気にしてくれている捨吉ですら、今は深成を省みることもなかったのに。
 真砂が何とかしてくれるだろうと思ったのかもしれないが、捨吉だって真砂のことは、よく知っている。
 絶対深成を救ってくれるという確信はないだろう。

---んでもあんちゃん、そんなわけないって否定しながらも、真砂はわらわを殺さないと思うとか言うよなぁ---

 否定しながらも、どこか確信めいた言い方で、いつも捨吉はそう言う。
 おそらく捨吉にも信じられないのだろう。

 しかし実際、真砂は深成を殺さない。
 手荒だが、よく考えたら庇ってくれている、とも思える。
 そう思った途端、何か、きゅ、と胸が苦しくなった。
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