夜香花
「……あ、ありがと」

 そそくさと裾を直し、深成はとりあえず、礼を言った。
 まさか真砂が手当てしてくれるとは。

 でもさっきは深成が助けたのだから、おあいこといえばおあいこだな、と無理矢理思い、ぎくしゃくと周りを見渡した。
 もう敵の姿は見えない。

「……あんちゃん、大丈夫かな」

 ぼそ、と言う。
 爆発に巻き込まれたことはないと思うが、無事に逃げられたかもわからない。
 だが真砂は、そんなことは気にならないようだ。

「人の心配よりも、てめぇの心配をするんだな」

 ぶっきらぼうに言い、油断なく辺りを見回す。

 その目が不意に鋭くなり、刀を掴むと、小さく顔の前で振り下ろした。
 がきん、と苦無が地に落ちる。

 深成は驚いて、真砂に身を寄せた。
 気配など、全くしなかった。
 ぴくりとも動かず、真砂も相手の気配を探っている。

 と、いきなり真砂が深成を突き飛ばした。
 大きく飛ばされ、深成は真砂から二間(約3.6m)ほども離れてしまう。

 同時に真砂は、己の頭上に振ってきた刃を受け止めた。
 だが咄嗟に顔の前で受けた刃に、真砂の顔が歪む。
 受けたのは刀ではなく、斧のような重い刃だったのだ。
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