夜香花
「くっ……」

 おまけに真砂に対峙しているのは、力業だけが取り得のような、筋肉隆々とした巨漢である。
 いかな真砂であっても、己の倍ほどもある身体の男の力には敵わない。
 徐々に斧は、真砂に迫る。

「真砂っ!」

 深成は腰を探り、最後の苦無を放った。
 一応いつでも苦無は持っているようにしていたが、あまり数は持てない。
 収納袋もないままでは、二、三本が限度だ。

 敵とも思えないほどの子供から、思わぬ鋭い攻撃を受け、巨漢の力が弱まった。
 その一瞬で、真砂は一気に刃を弾き、そのまま地を蹴った。
 そして、全体重を乗せた刀を、巨漢の肩口へと上段から叩き付ける。

 巨漢が大口を開けた。
 が、叫び声が出る前に、血泡が噴き出す。
 巨漢の血を浴びながら、真砂はほとんど相手の身体を真っ二つに斬り裂いた。

「んにゃーっ!」

 いきなり上がった叫び声に振り向くと、深成が男にのしかかられていた。
 男が今にも深成の喉に突き立てようとしている短刀は、深成の懐剣だ。
 立ち向かったが、力が弱く、奪われたのだろう。

 真砂は身体を捻って、男の頭に回し蹴りを見舞った。
 男は一瞬だけ体勢を崩したが、すぐに立て直す。
 そして真砂を睨み付け、ぱっと己の右袖をまくった。

 そこには荒く布を巻いた、手のない腕があった。
 真砂が火薬ごと斬り落とした手の主だ。
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