夜香花
「うけけけーーーっ!」

 血走った目で真砂を睨みながら、男は不気味に甲高い笑い声を上げた。
 どうやら壊れてしまったらしい。

 しかし壊れたからといって、実力までが落ちるわけではない。
 男は薄笑いを浮かべながらも、油断なく懐剣を構え、足ではしっかりと深成を拘束している。

 ちらりと真砂は、己の足元を見た。
 自分の刀は、何度か立て続けに使ったお陰で、このままではもう斬れない。
 苦無はまだあるが、それを出す余裕はなさそうだ。
 誰かが少しでも動けば、男も動くだろう。

 深成を見捨てたところで、時間稼ぎは一瞬だ。
 多分役に立たない。

 どうしたもんか、と思っていると、男が、つい、と手のない右腕で己の胸元を示した。
 そこには首からかけた小さな袋が下がっている。
 そしてその袋の上部には、小指の先ほどの黒い石。

 真砂よりも近くでそれを見た深成が、息を呑んだ。

---火薬か!---

 真砂も気づいた。
 そもそもこの男は、火薬師のようだった。
 首にかけた袋は、いざというときのための、最後の爆薬だ。
 袋の上部の黒い石は、着火剤だろう。

 二人の反応に、男は満足そうに、にやりと笑い、首から小袋を千切ると、宙に放った。
 同時に持った懐剣を、小袋の着火剤目掛けて突き出そうとする。

 その隙に、真砂は屈んで深成の両脇に手を突っ込むと、素早く男の下から引きずり出した。
 そして拾った刀を一閃して、男の懐剣が届く前に、小袋を弾き飛ばす。
 少しだけ離れた空中で、小袋は爆発した。
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