夜香花
「足手まといを捨てるのは当然だ」

「そんなこと、出来るわけないでしょっ」

 きゃんきゃんと言う深成に、真砂は眉を顰めた。

「何故だ。逆の立場だったら、俺は躊躇いなくお前を捨てて、先に行くぜ」

 乱破の世界では、当たり前のことだ。
 『情ある乱破は自滅する』。
 情など必要ないのだ。

「嘘だよ!」

 いきなり深成が、真砂の胸倉を掴んで叫んだ。

「腕を失ったのがわらわだったとしても、真砂はわらわを見捨てない! 担いででも、ここ登ってくれるよ!!」

 思いも寄らない言葉に、真砂は目を見開いた。
 何を言っているのか。
 誰より傍にいたと言っても過言でないぐらい己を見てきたくせに、どう考えればそういう風に思えるのか。

「……何を言ってる。俺がそんな優しい男だと思うのか」

 深成の言うことがわからず、真砂は渋面になって言った。
 だが深成は、大きく頷く。

「お前、おかしいんじゃないのか。一体俺のどこを見て、そんなことが言えるんだ」

 話にならない、というように横を向く真砂を、深成は掴んだ胸倉を引き寄せて振り向かせる。
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