夜香花
「じゃあ! 何で腕を失ってまで、わらわを助けたのさ!」

「……何?」

「その前だって、あの男の下からわらわを引っ張り出してくれた! わらわがあの男に襲われてる間に、真砂だったら逃げることだって出来たはずだ! 一瞬でも隙を見せたら、その場を切り抜けることも出来る真砂が、わざわざ腕を犠牲にしてまで、わらわを助けてくれたんじゃん!!」

 真砂は何か言おうと口を開いたが、言葉が出て来ない。
 ただ泣きながら叫ぶ深成を、茫然と見つめた。

「……こういうことになるから、情ある乱破など自滅する、と言うんだ……」

 しばらくしてから、ぽつりと真砂が呟いた。
 え、と深成が顔を上げる。
 しばし俯いた真砂を下から見上げ、恐る恐る口を開く。

「……真砂。それって……」

 そのとき、不意にざっと音がし、傍の木が激しく揺れた。
 と思った瞬間、一つの塊が降ってくる。

「あっ頭領!!」

 甲高い声がし、泥を跳ね上げて捨吉が駆け寄ってきた。

「良かった! 上でいくら捜してもいないから、心配で」

 真砂が口を引き結び、妙な顔をした。
 他人など、どうでもいい真砂だ。
 落ち合う場所にいないからといって、わざわざ探しに行くなど考えもしない。

 人の身を案じることなど、余計なことでしかなかった。
 今までは。
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