夜香花
 ぽかんと、真砂は足元の少女を見た。
 先の俊敏さが嘘のような間抜けさだ。
 毒気を抜かれ、真砂は少女に背を向けた。

「ま、待てっ! お、お方様の仇っ……」

 涙と鼻血でぐちゃぐちゃの顔で、少女が叫ぶ。
 が、懐剣は握っているが、へたり込んだままだ。
 真砂は冷たい一瞥を少女に投げた。

「なめるのも大概にしろ。お前のようなガキが、この俺に敵うと思っているのか」

 殺す気も失せるほどの情けない少女に言い捨て、真砂は地を蹴ると、築地塀に飛び乗った。
 清五郎が続く。

 塀の向こうには幾人かの兵が倒れているだけで、大した人影はない。
 主がいないのを幸い、そう大軍で押し寄せてくることもなかったのだろう。

 そのとき、ず、と僅かに地が揺れたかと思うと、屋敷が凄まじい音を立てた。
 仕掛けられた爆薬に、次々と引火したらしい。
 続けざまに轟音が響き、火柱が上がる。
 巻き込まれた兵らの悲鳴が響き渡った。
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