夜香花
「お前、見ないほうがいいよ」

「へ?」

 何のことやらわからず、じ、と深成が見る前で、真砂は捨吉の差し出した木切れを、横向きに咥えた。

「真砂?」

 深成が言った途端、じゅっと音がした。
 同時に、むっとする肉の焼ける臭いが立ち込める。

 深成が息を呑んだ。
 捨吉も、顔を背けている。

 真砂が、焼けた苦無を自分の左腕の傷口に押し当てたのだ。
 じゅ、じゅ、と苦無の全面を使って切断面を焼いた真砂は、やがて力尽きたように、身体の力を抜いた。
 からん、と苦無が落ちる。

「……っ」

 奥歯が砕けないよう咥えていた木切れを吐き出し、真砂は壁にもたれかかった。
 もう意識も怪しい、という風に、目を閉じる。

 捨吉が、けほんと噎せた。
 人の血肉の焼ける臭いは、間違っても良いニオイではない。

 我慢していたようだが、一度出てしまうと止まらなくなったようで、捨吉は立て続けにけほけほと咳き込むと、ようやく立ち上がった。
 筵を敷き、持ってきた竹筒を用意する。
 そして、ちらりと真砂を見て、少し考えた。
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