夜香花
「深成」

 捨吉に呼ばれ、やっと深成は我に返った。
 一拍置いてから、捨吉を見る。

 身体はまだ震えている。
 まさか自分で自分の傷口に、焼き鏝(こて)を入れるとは。
 止血の一番いい方法だが、大抵は怪我人を押さえつけてするものだ。

「深成。頭領は、多分これから高熱が出る。腕一本なくなってるんだ。悪くしたら、死ぬかもしれない。お前が看病してくれるかい?」

「う、うん。それはもちろんだけど、あんちゃんは?」

 震えながらも、深成は頷いた。
 捨吉は安心したように笑い、深成の頭を撫でる。

「相手は頭領だもの。俺の看病は拒むだろう。俺だけじゃない、里の誰も、今頭領に近づいたら、有無を言わさず追い払われるさ。必要なモンは、俺がまた明日、持ってくる」

「そんな、わらわに何が出来るのさ。わらわよりも、あんちゃんのほうがいろいろ知ってるし、役に立てるでしょ?」

 里の者でも追い払われるのであれば、仲間でもない自分など論外なのではないか。
 そもそも、端から敵なのだ。

 だが捨吉は、深成に顔を寄せると、真砂に聞こえないようにか、小声で囁いた。

「お前にしか、頭領の世話は焼けないさ。言ったろ、頭領、お前のことは気に入ってる」

「……」

「頼んだよ」

 わしわしと頭を撫で、捨吉は外の様子を窺うと、ひょい、と近くの枝に飛び移って去っていった。
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