夜香花
「よいしょ。……痛くない?」

 ぎゅっと縛り、恐る恐る聞いてみたが、反応はない。
 ただ座ったまま頭を垂れている真砂に、深成は彼の左腕を自分の膝に乗せたまま、じっと様子を窺った。

---そういえば……---

 ふと寒気を覚え、深成は自分がびしょ濡れなのを思い出した。
 豪雨の中を移動したのだ。
 着ている着物は、すっかり水を吸って重くなっている。

 当然それは、深成だけではない。

---このままじゃ風邪引いちゃう。まして真砂は弱ってんだし。……でも……---

 ちらり、と真砂を見る。
 自分と同じく、真砂もずぶ濡れだ。
 この後熱が出るだろうと、捨吉も言っていたし、ただでさえ高熱が出るのに、その上風邪まで引いたら、それこそ命が危ういのではないか。

---身体を拭く……といっても、ぬ、脱がさなきゃだよね……---

 ど、どうしよう、と深成は怪しく視線を彷徨わせた。

---ああ、あんちゃん、何でそこまでしてくれなかったのさーーっ---

 心の中で叫んだが、どっちにしろ捨吉が言ったように、真砂がそんなことを許すはずがないのだ。
 深成が触れたときに、ぴくりと反応したように、誰かが触れたらわかるのだ。

 まして捨吉がいたときは、真砂は今よりは、まだ意識があったかもしれない。
 他人に着物を脱がされて身体を拭かれるなど、とんでもないことだろう。
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