夜香花
 ふと見ると、辺りはすでに真っ暗だ。
 知らぬ間に、夜は更けていたらしい。

 ぶる、と身震いし、深成は単を掻き合わせた。
 気温が格段に落ちている。

 火に手を翳し、ちらりと真砂を見た深成は、ぎょっとした。
 真砂が震えている。

 慌てて近寄り、額に手を当てて、深成は弾かれたように手を離した。
 焼けるように熱い。

「……っう……く……」

 覚醒したのか、真砂は懸命に震えを止めようと、右手で左腕を押さえている。

「そんなことで、止まるわけないじゃんっ」

 叫んでみたが、どうすればいいものやら。
 筵はもうないし、着物はまだ乾いていない。

---ていうか、わらわも寒い---

 ぶるぶるっと身体を震わし、両手を身体に巻き付ける。

---このままじゃ風邪引いちゃうよ。わらわでこんなに寒いのに、ただでさえ怪我してる真砂なんて、死んじゃうかも---

 そう思った瞬間、深成はがばっと真砂の上にかけていた筵をめくった。
 するりと真砂の隣に滑り込み、ぎゅ、と抱きつく。

「……馬鹿野郎……。冷たいだろうが……」

 ぼそ、と真砂が呟く。
 深成の着ている単は、まだ完全には乾いていないのだ。
 生乾きの単を着たままでは、引っ付いても暖かくないばかりか、お互いの体温を奪ってしまう。

 深成は帯を解いた。
 ささっと単を脱ぐと、筵を上にかけ、再びぎゅ、と真砂に抱きつく。
 それでも真砂の震えが止まらないので、深成はごしごしと、手当たり次第真砂の身体を擦った。

---真砂が死んじゃったら、わらわはどうすればいいの---

 元々の自分の目的も忘れ、深成はそれだけを思って、必死で真砂を暖め続けた。
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