夜香花
第三十二章
朝靄の中に、ちゅんちゅん、という小鳥の囀りが響いている。
昨日の争いなど嘘のように静かな朝だ。
雨もすっかり上がっている。
捨吉は、大きな包みを背中に括り付けて、慎重に蔦葛を伝って、洞穴に近づいた。
がさがさ、と入り口の木立を掻き分け、ひょい、と洞穴を覗き込んだ捨吉は、あっと息を呑んだ。
真砂が座っている。
「頭領っ。気がついたんですね! 良かった」
ぴょん、と洞穴に入るなり、捨吉はがばっと真砂の前に膝を付く。
嬉しそうに言うと、いそいそと背中の荷物を下ろして広げ始めた。
「米と芋しかないですけど。腹減ったでしょう? 食材を用意するのは、許してくださいね。作るのは、深成に……あれ?」
人の世話になるのも、人から施しを受けるのも厭う真砂だが、さすがにここには食べ物はない。
取りに行ける身体でもないし、捨吉の厚意に頼るしかない。
いそいそと持ってきた食材を並べていた捨吉は、きょろ、と洞穴の中を見渡した。
座っているのは真砂だけだ。
見ると、真砂のすぐ横に敷かれた筵の中から、深成がじっと見ている。
昨日の争いなど嘘のように静かな朝だ。
雨もすっかり上がっている。
捨吉は、大きな包みを背中に括り付けて、慎重に蔦葛を伝って、洞穴に近づいた。
がさがさ、と入り口の木立を掻き分け、ひょい、と洞穴を覗き込んだ捨吉は、あっと息を呑んだ。
真砂が座っている。
「頭領っ。気がついたんですね! 良かった」
ぴょん、と洞穴に入るなり、捨吉はがばっと真砂の前に膝を付く。
嬉しそうに言うと、いそいそと背中の荷物を下ろして広げ始めた。
「米と芋しかないですけど。腹減ったでしょう? 食材を用意するのは、許してくださいね。作るのは、深成に……あれ?」
人の世話になるのも、人から施しを受けるのも厭う真砂だが、さすがにここには食べ物はない。
取りに行ける身体でもないし、捨吉の厚意に頼るしかない。
いそいそと持ってきた食材を並べていた捨吉は、きょろ、と洞穴の中を見渡した。
座っているのは真砂だけだ。
見ると、真砂のすぐ横に敷かれた筵の中から、深成がじっと見ている。