夜香花
 真砂はその間、立てた片膝に額を付けていた。
 当然ながら、一晩で回復するはずもなく、まだ熱も下がっていないのだ。

 だが身についた習性は無意識にも働く。
 捨吉の気配を察知してからは、横になることはしない。
 そんな真砂に、捨吉は、こそっと深成に耳打ちした。

「ねぇ。頭領、まさかずっとあの状態なの?」

「ん? いや、まさか。夕べは無理矢理寝かせたよ。もぅ、すぐに起きちゃうんだから。あんな態度じゃ、治るものも治らないよねぇ?」

 口を尖らせながら言う深成に、捨吉は少し複雑な表情になった。
 そして、ぐつぐつと煮立ってきた器を覗き込み、立ち上がる。

「あれ、あんちゃん、帰っちゃうの? ご飯食べてけば?」

 深成が見上げて言うが、捨吉は軽く首を振った。

「いいよ。俺も逃げ延びた人たちも、今は忙しいんだ。今後どうするかも、まだ全然決まってないしね」

「そか」

 じゃあね、と深成の頭を撫でると、捨吉は穴の外へと飛び出していった。
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