夜香花
「さて」

 出来上がった粥を器に取り、深成は真砂に向き直った。
 人の作ったものは食べない真砂だ。
 目の前で作ったものでも食べない、と以前言われた。

 だが今は、そんな場合ではないだろう。
 ずいっと深成は、真砂に近づき、器を突き出した。

「真砂、ご飯だよ。起きられる?」

 座ってはいるが、依然額を膝に付けて項垂れたままだ。
 深成は少し考え、そろ、と真砂のうなじに手を当てた。
 額もうなじも、体温を測るには良い場所だ。

「まだ熱、高いじゃん。辛いなら寝てなよ」

 軽く肩を押してみるが、真砂は抵抗した。

「もぉ。何意地張ってんだか。だったら起きてるうちに、ご飯食べちゃいなよ」

 ずい、と鼻先に器を持っていくが、真砂は低く呟いた。

「……いらん」

「わらわが作ったからってんでしょ。でも真砂、自分で作れるとでも思ってんの。あのね、物は考えようだよ。わらわがこれに毒を入れてたら、真砂は死んじゃうけど、今これ食べないと、どっちにしろ弱って死んじゃうかもよ? だったら一緒じゃない?」

 脱力するほど軽く言う。
 真砂は黙っていたが、ふぅ、と息をつくと、器を受け取った。

 途端に深成が、ぱぁっと笑顔になり、ひょい、と一旦真砂の手に渡った器を取り上げた。
 そして木のレンゲを突っ込むと、ふぅふぅと冷まして、はい、と真砂の口元に持ってくる。
 真砂が思いきり顔をしかめて深成を見た。
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