夜香花
 あくまで軽く言いながら、深成はもう一度、えい、と真砂の肩を押した。
 やはり真砂は抵抗したが、やがてしぶしぶ、という感じだが、右腕を枕に、横になった。

 ふぅ、と息をつく。
 まだ顔色は悪いし、辛そうだ。
 深成は昨日と同じように、ごりごりと薬草を磨り潰した。

「真砂。お薬替える」

 言い様、深成はさっさと真砂の左腕に巻かれた布に手をかけた。
 真砂が細く目を開ける。

 だが意外に、特に何の反応も見せなかった。
 心の中で、ほっと息をつき、だが表面上は気づかぬ風に、深成は布を解くと、竹筒の水をかけて傷口を洗う。
 一度傷口を綺麗にしてから、また薬草を塗った白布を巻き付けた。

「じゃ、あとは寝てることだね」

 そう言って真砂を見た深成は、少しだけ目を見開いた。
 真砂は目を閉じている。
 寝てるのかな、と、しばらく見てみたが、ぴくりとも動かない。

 そろそろと、深成は筵を真砂の身体にかけた。
 それでも動かない。

 少しだけ、深成は嬉しくなった。
 中の長老の話では、長老の家にいた頃は、寝ていても筵をかけようものなら飛び起きていたということだった。

 今は大怪我の身だが、それでも真砂は、普通なら意地でも横にはならないだろう。
 実際先程、捨吉がいたときは起きていた。

 それに何より、深成の作った粥を食べたのだ。
 あえて何も言わなかったが、深成は真砂が粥を啜ったとき、飛び上がるほど嬉しかった。

---なめられてるだけかもしれないけど、いいや---

 両膝を抱え、深成は真砂のすぐ傍で小さくなった。
< 433 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop