夜香花
第三十三章
 五日ほど、そのような日々が続いた。
 ある朝、真砂は洞穴の淵に立って、上を眺めていた。

「……上、行けそう?」

 はらはらしながら深成が聞くと、真砂は身体を戻して、軽く首を振った。

「無理だな。やはり片手では到底登れん。そんな簡単なところに、逃げ場は作らんしな」

「そっかぁ……」

 しょぼん、と俯く深成に、真砂は少し妙な顔をした。

「お前は登れると言っただろ。別にいつまでも俺の傍にいる必要もあるまい」

 当たり前のように言う真砂に、深成は何故か、じろ、と鋭い目を向ける。
 だが文句を言うでもなく、深成は穴の淵から外をきょろきょろと見回した。

「降りるのは出来そうだね……。でも里に帰るわけにもいかないし」

 まだ里が襲われて、そう経っていない。
 それに一度襲われた忍びの里は、大抵そのまま打ち棄てられる。
 場所の割れた隠れ里など、意味ないからだ。

「これから、どうすんの?」

 少し不安そうに、深成が言う。
 深成の不安は、今後の自分の身の振り方というよりも、これを機に、本気で真砂に捨てられるかもしれない、というところにある。

 真砂はそんな深成を見、不思議な気分になった。
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